【参加チャンス2】最優秀作品(1)
タイトル: 無題
ハンドルネーム:杉本 様
【本文】
夕闇迫る黒百合工業高校が、揺れていた。
断続的であり、不規則なその揺れが何を意味をするのか生徒たちは勿論分かっている。学内で督司会による模擬戦が行われているのだろう。
だが今行われている模擬戦がいつもと異なるものであることを知るのは、実際にナイト・デュエルを目の前にしている者だけだ。
いや、むしろこの戦いは意図して一般の学生の目を避けていた。通常の学内模擬戦では有り得ない程に強固な結界内で繰り広げられているのは、およそ部外者に知られて良いようなものではないからだ。
知られたくない、という方が適切かもしれないーー。
「いい加減にしろ、エンザン!」
長いリーチを有するブラックナイト・ナギナタが、手にした得物を振りかざし、エンザンと呼ばれたブラックナイトに迫る。
「くどい! 俺はやらんし、お前如きにはやられん!」
頭上から迫るナギナタを、あえて懐に飛び込むことで根元を制する。逆に近距離に迫ったエンザンが、鉄拳を相手の顔面にお見舞いした。
再び、ブラックナイトの身体が倒れ、地面を揺らした。
倒れたのはこれで2体目。
「ちょ、ちょっと先輩! もう二人もやられちゃいましたよ」
戦いを見守っていた、新人督司会メンバーが思わず情けない声を上げてしまう。だが目の前の現実を見れば、誰もそれを責めることはできない。
そう。今日行われているのは、いつもの模擬戦ではない。督司会メンバーが総出で、たった一人に挑んでいるのだ。
「ああ。やはり強いなぁ、アイツ」
「ていうか、誰なんですか? そもそもあの人、機士でもないのどうして……」
「あいつは”元”機士だ。エンザン・コウソク。見ての通り、メチャクチャ強い」
説明がなされる目の前で、エンザンのブラックナイトが3人目の挑戦者を迎え撃っていた。
ブラックナイト・ヨロイの連続攻撃に、エンザンは足元の砂を蹴り上げ、視界を潰す。
2体のブラックナイトの姿がーー消える。
次の瞬間、砂埃の中から飛び出してきたのはーーアーティファクトを纏い形態を変化させた、ブラックナイト・サソリ。巨大な2本の鋏。鋭いニードルを背に備え、高速で地を這ってヨロイの周囲に更なる砂煙を巻き上げて行く。
「あんな実装まで出来るなんて!」
「ああ、エンザンは黒百合工業歴代機士と比べても名を残せるであろう腕前の持ち主。だが、奴には致命的な弱点があったーー」
視界を潰され、相手を見失ったヨロイの背後を取り、ブラックナイト・サソリが吼える。
「底面かけるぅぅぅぅ!」
背部ニードルを潜行させた地面から突き出し、アッパーカットのようにヨロイの身体を上空へ、
「高さ! 割る……2だッ!」
ヨロイの装甲を、2本の鋏が両断した。
「これがーー勝利の方程式!」
「……三角形の、公式?」
「そのようだ。エンザンは黒百合工業史上最低の成績不振者、平たく言えば馬鹿なんだ。噂では人前で1+1を間違えたことが、脱退の原因らしい。今は算数から勉強をやり直していると聞いていたが、本当だったんだな」
「算数……ですか」
「機士としては最高。学生としては、最低。それがエンザンという男だ」
武装をボロボロにしながら、それでもなおヨロイは身構えていた。
「俺はまだ今日の補習ノルマが終わっていないんだ! さっさと終わらせる!」
地面から現れたサソリが実装を解除。そして今度は全てのアーティファクトを再構築して、右腕に集中させた。巨大なドリルを装備するのが、ブラックナイト・サソリのアタックモード!
「くらえ。俺の必殺……算、数ゥゥゥゥドリルッ!!」
超高速で回転するドリルが、大気をも巻き込む。そのまま駆け出し、一気に間合いを詰めていく。そして回転スピードが臨界に達した巨大ドリルは、ブラックナイト・ヨロイの装甲を完全に貫いた!
「凄いけど、本当に頭は悪そうですね…」
「ああ。なんか、コイツにはなんか、違う意味で負けたくないな」
「でも次……」
「俺が行く。なんとか倒してくるさ。算数ドリルには、負けたくないからな」
終
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