【参加チャンス2】最優秀作品(2)

 タイトル:魔導の天使クリーピィマイ

ハンドルネーム:日昌晶

【本文】

「……でも法律で決まってることですしぃ」

 消えいりそうな声ながらもカヅキ・マイは説明していた。

「道交法は重々承知しています。そこを曲げて頼んでいるのです。スピードを少々だしすぎたのも急患で一秒でも早く病院にかけつけようとですね——」

 先ほどからオオタと名乗る優男風の医師はスピード違反の切符を切られることに抵抗していたのだ。

 病人を待たせて急いでいるなら、いつまでもゴネねてないで、さっさと病院にかけつければよさそうなものなのだが……

 ただの言い訳なんだろうな。マイは署の交通課に配属されて以来、そういう見え透いたウソには飽き飽きしていた。

 しかし面と向かって言えない。それがマイの性格であり、最近どうも自分は警察官にむいていないのではないかと悩む理由でもあった。

「あのう、ちゃんと聞いてもらっています?」

 目を見て話せないでうつむいるマイにオオタが言う。

「ですから法律で……」

「わからないお嬢さんだな」

 オオタは外国人みたいに大仰にかぶりを振った……そのときだった。

 爆発音、そして衝撃波!

「——なんだ、あれは!?」

 オオタの顔がみるみる青ざめてゆく。

 振り向いたマイも見た。

 それは爆発の黒い煙の中から現れた巨大な怪物だった。

「もしかして機体なの?」

 しかしデュエル用の機体にしてとにかく規格外にデカすぎた。

 しかしパーツごとに見てゆけば、それはまちがいなく機士の操る機体だ。

 そんな怪物がこっちに向かって突進してきていたのだ。

「俺のシマでこんなことやってくれるとはいい度胸だ!」

 突然、マイの目の前に不良が車道に飛びこんできた。

「そこの君、危ないからさがりなさーい」

 しかしマイの制止を聞かずに学生が召還したのはブラックナイトだった。しかし怪物の前では子供以下の体格でしかない。

「おうっ、誰に断って好き勝手やってくれてんだっ! 俺は黒百合工業にその人ありと言われたバンバ……」

 しかし威勢のいい啖呵は最後まで口上を聞くことはできなかった。なにしろ怪物の触手の一撃により数台の自動車やアスファルトと一緒に吹っ飛ばされたからだ。

「学生風情はこのグレートニートに刃向かうとは百年早いんだよ!」

 怪物からどす黒く歪んだ咆吼にも似た声が轟く。

「なによ……まったくなんてことしてくれるよ…………」

 マイは怒りに肩を震わせ、拳を強く握りしめた。

 目の前のオオタは触手の一撃で飛散した破片が頭に当たったのか昏倒してしまっていた……

「もうっ! これじゃあ違反切符を切るに切れないでじゃないのよ!」

 召還——マイは鋼の鎧を纏っていた。

「ほほう、貴様も機士か。しかし俺を倒すことは不可能だぞ!」

「どうしてこんなことするの?」

 マイは怪物の進路を妨げるよう立ち塞がった。

「愚問! 俺みたいに優秀な人間が彼女いない歴=年齢なのに、そこらのチャラチャラしたヤツらは見境なくイチャつきやがって!

俺はこんな不条理な世界をぶち壊してやる!」

「そんなくっだらない理由で……」

 マイは怒りよりも呆れ果てて頭が痛くなってきた。

「くだらんとはなんだ! 俺にとっては人生を左右する問題だぁー!」

 先ほどブラックナイトを瞬殺した触手が襲いかかってくる。モテない男ほど触手がお好きらしい。

 実装——マイは触手をかわし、アーティファクトが顕現してゆく。

「器物破損と公務執行部外と……まあ、いろいろな容疑で君を逮捕よ!」

 マイは機体の人差指を怪物に突きつけた。

「見てくれが変わった程度で調子に乗るなよ、リア充が!」

「わたしだってリア充なんかじゃないわよ!」

 機体を纏うと豹変する。学生時代よくそう言われた。

 内向的な性格による日頃の鬱憤をデュエルに打ちこんでいた学生時代を思い出していた。

 ある意味、暗い青春でもあったが輝かしい青春でもあった。

 跳躍——怪物の力任せの攻撃を軽々とかわしてゆく。

「バニーモードはそう簡単に捕まらないんだからね!」

 動物モードというべきか長い耳はたしかにウサギなのだが、そのシルエットはバニーガールそのものだった。

 そして素早い身のこなしを利用してのキックによる一撃離脱戦法は巨体ゆえに動きの鈍い怪物から次々に装甲を剥ぎとっていった。

「くそっ! ちょこまかと——」

 怪物は触手を振り回すが周りの車や建物を破壊するばかりでマイには当たらない。

「笑止! その程度の攻撃を何発喰らっても俺を倒すことなどできんぞ」

 超重装甲のグレートニートに攻撃はまったく効いていない。

 だがマイは昂揚していた。社会人になってからはめっきり機体を召還することもなく、ストレス発散の場がなかったことに気づいたのだ。本当の自分はデュエルにある。それを忘れていたことを思い出していた。

「もったいないけど、そろそろ終わりにさせてもらうからね——合身!」

 マイの声に反応するかのように怪物から引きはがされた無数のパーツがマイの機体へ磁石みたいに引きよせられてゆく——

「交通ルールを守りましょう、赤信号のある限り。魔導の天使クリーピィマイ参上!」

 びしっと決めポーズ——それは女性的なシルエットは変わらないがスカートのような装甲、ステッキのような武器を手にしたアニメに出てくる魔法少女そのもののだった。

「マジカル・ナイトメア・アターックっ!!」

 目映い光芒を放ちステッキの一撃が怪物の脳天に炸裂する。

「オンナなんて大嫌いだー! リア充爆発しろー!」

 それがグレートニートの断末魔だった……そしてお約束の大爆発。

「すみませんが現行犯なので逮捕しちゃいますね」

 召還を解除したマイは気絶している青年に手錠をかけた。

「うん、やっぱりもう少し警察官を続けてみてもいいかも!」

 マイはパトカーのサイレンの音を遠くに感じながらマイはにっこり微笑んだ。

 だってこんなキモチいいこと、警察官じゃなかったらできないんだから。

 そして瓦礫からようやく這いだしたバンバは廃墟同然の街に颯爽と立つ女性警察官を見て溜息混じりに呟くしかなかった。

「うちのミサキちゃんといい、紅華のヤツといい、なんで女ってこんなのばっかなんだよ……」

(了)


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